PCデポの高額違約金問題からはじまった一連の騒動
企業倫理を疑う不当契約や従業員への「トウゼンカード」と呼ばれるノルマなどなど経営陣の質を疑う声がネット上であがってますね
なかにはtwitter上で内部告発と見られる声もはてブにあがってきたりしていますが経営陣が悪で従業員が善みたいな構造にするのはいただけなかったりします。実際に老人に不当な契約を結ばせていたのは現場で働く従業員のほうだからです。僕はPCデポに関してはむしろ労働者が悪いと考えています。僕のIDに依拠して考え、すこしPragmatic(実存的)な話に落とし込んでいきたい。
ブラック企業問題やうつ病などなどによって、最近は労働者を糾弾すべきではないみたいな空気がありますがPCデポに関してはブラック企業はブラック企業でも労働者を酷使している企業と一律に捉えるのは違う。詐欺と断じて良い不当契約を結び、老人から搾取していたのは内部告発をしている従業員もふくめ現場で働く店員のほうであって、そちらにも責任を求めないとこの手の問題は永遠に続くと考えているからです。
最悪は最凡
なぜ従業員を非難することが必要なのかというと服従こそが最も偽善的な悪だからなんですよ。
なんでこういうしちめんどくさい考えを持たばければいけないかというと歴史がものがたっていて旧ナチス政権のドイツで実際にホロコースト(大量虐殺)を起こしたのはヒトラーではないからです。
人類史上に残る残虐の極みを尽くした人間は誰かといえばユダヤ人を倉庫に押し込んだアイヒマンと兵隊のほうだからなんですよ。
ヒトラーが悪いというのは語るまでもないほどに自明ですけど当時のあの国の問題はもっと構造的な不可逆性・・・そして管理職、兵隊の「自分で考える」ことを放棄した服従の心理のほう。PCデポの問題にひきつけて考えればアイヒマンは現場で働く従業員のほうであって後になって自分に責任はないと主張するようなアイヒマン的思考を行う内部告発者のほうなんですよね。
だから僕はtwitterでPCデポの店員が内部事情を暴露しているのを見ているとどこまで他者責任でいるのかという怖さを感じます。やったのはおまえらだろと。実存主義的に言えば炎上すべきは従業員のほうなんですよ。
しかしこれには人間の服従の心理という障壁があります。アイヒマンがなぜ数百万ものユダヤ人を虐殺するに至ったかというと彼がものすごく平凡な人間であったからです。
アイヒマンがホロコーストを起こしドイツからイスラエルに逃げて捕まった時に裁判で臆面も見せずに言ったことは「言われたことをやっただけ」というものでした。考えることを放棄した。だから善悪を振り切った虐殺を行うことができた。アイヒマンが教えてくれたことは考えることを放棄することがいかなる危険思想よりも悪だということ。
上の言うことに忠実なものすごく理想的な労働者・・・アイヒマンが仮にいまこの日本に生きていれば虐殺など行うこともなく言われたことを忠実にこなし、新橋で安酒を煽り、家族を持ち、ローンで家を建てるような理想的な労働者として生きられたことでしょう。最も残酷な行為を行える人間は最も平凡な人間なんですよ。
僕も平凡な人間なのでこの記事を書いているのはPCデポの労働者を責めるという意図よりも自戒を込めた誓いのようなものなんですよね。
アイヒマンが逮捕され死刑判決が下された翌年にミルグラム実験(アイヒマンテスト)という人間の残虐性を試す実験が行われました。
演技力の高い俳優を電気イスに座らせて電流を流すのですが、監督者が無作為に集めた一般人に命令して電力を上げながら電気を流させました。
俳優は以下の電力に応じた反応を被験者に見せて、被験者がどこまで監督者の命令を忠実に実行できるかというものでした。
1.75ボルトになると、不快感をつぶやく。
2.120ボルトになると、大声で苦痛を訴える
3.135ボルトになると、うめき声をあげる
4.150ボルトになると、絶叫する。
5.180ボルトになると、「痛くてたまらない」と叫ぶ。
6.270ボルトになると、苦悶の金切声を上げる。
7.300ボルトになると、壁を叩いて実験中止を求める。
8.315ボルトになると、壁を叩いて実験を降りると叫ぶ。
9.330ボルトになると、無反応になる。
結果は40人中25人が無反応になるまで(死ぬまで)電力を上げ続けるという衝撃の結果でした。人間の罪悪感というブレーキは責任が他者にあるかぎりほとんど機能しないのです。
めずらしくアフィリンクを貼りますけどこの話はハンナ・アーレントの本やDVDを見たほうがいいです。なぜ思考しなければいけないのかということがわかります。
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これはアイヒマンがユダヤ人を虐殺し、そしてPCデポの店員が経営陣の指示に従い老人に不当契約を結ばせたこともまったく同じ。電力を上げ続け死に至らしめることですら60%しか自らの意志で止めることができないことを考えると、PCデポの契約など罪悪感のかけらももたないで従業員は契約させていたと推測できる。
そしてそんな従業員を非難する声がほとんど見られないことは労働者に過剰に同情する平凡な人間が大多数だからということも言えてしまうのではないか。
PCデポの問題は経営陣が悪いのは当然。しかし現場で不当契約を結ばせていた従業員はPCデポが潰れてもまったく責任を問われずに罪悪感のかけらも持たないままぬけぬけとまたどこかの企業に属し、また何も考えないで同じことをやるでしょう。
だからインターネットでPCデポをバッシングして追い込むのもそれはそれでいいんですが、PCデポの問題は
経営陣が現場に出ないことで実存性から逃れて、従業員はアイヒマンのように責任感から逃れることで生まれた問題だと思ってしまうんですよね。ワタミのようなブラック企業問題と違うのがそこでPCデポに関しては労働者も経営者と同様に裁かれるべきだと感じています。
労働者から不当に搾取にして違法な残業などをやらせたり、過労自殺するまで働かせるというのは100%経営陣が悪ですがPCデポは違いますよね。
ちゃんと給料をもらってちゃんと就業時間があってノルマがあっても強制力があるわけではないかぎり従業員の責任も同時に追及すべきなんですよ。
つまり労働者とか雇われとかいう立場に安住して自分で考えて行動できない人もまた悪であるというのが、今回のPCデポの問題が教えてくれたことなんじゃないかな。