メロンダウト

メロンについて考えるよ

シラス「ニッポンの展望#8」を視聴したので西田亮介さんについての感想

見た

宮台真司×西田亮介×東浩紀「2021年初夏の陣」【ニッポンの展望 #8】 @miyadai @Ryosuke_Nishida @hazuma #ゲンロン210523 ゲンロン完全中継チャンネル | シラス

 

個人的に西田さんが言いよどんでいるシーンが印象的だった。ああいう感覚はすごくよくわかる。見ていない人に向けて書いても意味不明だと思うので当該シーンの概要を書いておくと

 

宮台さんは「日本社会は劣化している」と言う。タスクフォースの内でしか仕事ができない過度なコンプライアンス意識によって誰も責任を取らない社会になっていると。五輪のスポンサーとなっているマスメディアが開催について質問された時に解答できなかったことにも触れながら、政権や官僚及びそれを選ぶ国民が責任を回避して空気に従属することが日本社会の劣等性であると。三島由紀夫的な空気がいまだに日本社会を支配していると言う。東さんもそれに関連してコロナ禍において分科会が病床数を増やす提言をしないことを批判していた。分科会が政府に病床を増やす提言をしないことは批判されるべきであり、分科会に属する感染症医も責任を回避していると言う。空気やコンプライアンスではなくやるべきことを考え、やるべきことをやることが必要であると。

 

話としてはすごくよくわかるしほとんど同意なのだけど、この話にたいして西田さんが言い淀んでいた。こういう話にたいして言い淀む感覚はすごくよくわかる。三名の中で西田さんが最も若いためか、空気に抗うことがいかに難しいかを最もよく知っているからなのでしょう。宮台さんと東さんが言うことは普通に考えて正しいわけだけど、いまや普通のことを普通に言うことができなかったりする。あるいは普通のことを普通に考えて普通にできることはある種の「能力」になっているのだと思う。

 

独立した個人が個人の善性によって社会のあるべき姿を考え、その中でふさわしい振る舞いをし、誰かが間違っていた時にはそれを指摘し、正していく。大人とはつまりそういうものなのでしょうけど、そういった個人の独立性を許容するだけの余裕が社会のほうにないのではないだろうか。

たとえばマスク一つとってみてもこの社会は蓋然性によって支配されている。どれだけ独立性の強い個人がいたとしてもマスクをしていないだけで狂人扱いされる。個人の強さや独立心は言葉で言うことは容易いけれど、実際にそれを行おうとすると様々な社会的圧力によって封殺されていく。そのような圧力は以前よりもはるかに強固なものであろう。マスクだけではなく歩きタバコをすることも許されず、路上でお酒を飲むことも普通の人にとっては難しい。電車内で会話することさえ時に失礼にあたる。

そのような環境であってなお独立した強さを個人が持つべきだという言葉にどれほどの意味があるのかと思う。今の社会はもう蓋然性に支配されていて自由の意味も変質しており、みなが自由だと考える範囲での自由しか「実質的には」許されなくなっている。社会の外側においての自由はもはや許されていない。普段からそのような蓋然性に飲み込まれて生きているので、いざ職務になった時に職務の外側を考えるべきだというのは無理な話ではないだろうか。社会が個人を社会の内側に押し込んでいるかぎり「外側を考える想像力」は生まれるべくもない。その意味で分科会が政府に病床数の増加を提言しないことも社会の問題と言える。

 

宮台さんが若かったころにはまだ社会的な余白が多くあったのだと見聞きする。その中で個人が自由に行動し、その経験をもってしてユニークな個人の独立心が生まれてきたのでしょうけれど、そうした経過を今の社会で辿ろうとすると尋常ではない胆力が必要とされる。この時代に援助交際のフィールドワークをやってテレビに論客として出るのはまずもって無理でしょう。みな今の時代の中で程度問題として適応し、適応の中で楽しくやっていこうという戦略によって生き方を選ばざるを得なくなった。ありていに言えば今と昔は環境要因が劇的に違う。

その今の空気を西田さんが最もわかっているからこそ言い淀んでいたのかもしれない。宮台さんが言うところの「日本人は劣化した。日本人はクズである」と言う話も西田さんはよくわかっているのでしょう。それでもなお抗いがたい蓋然に社会が支配されていることを鑑みるに簡単にクズと言うことはできないと思い、沈黙したのかもしれない。

それがとても印象的だった。

西田さんのなんとも言えない気怠い雰囲気というか立ち振る舞いは、宮台さんや東さんよりもひょっとしたら今の社会にたいして絶望しているからなのかもしれない。すごくそう思う。実地的な時代感覚として、もうどうしようもないなという諦観は宮台さんよりも西田さんのほうが強いんじゃないかな。今の時代のど真ん中にいる人だからこそ、この社会の「内側」を誰よりも感覚として知っているのだろうし、同時に学問的な側面からも社会を見ているので内と外のダブルバインドになっているはずで。内外の視座を同時に持っているからこそ西田さんが最も強く今の時代を体現しているのだと僕なんかは思って見ていた。

 

※蛇足

とても面白かった。座組みとして東さん西田さん宮台さんの3人はすごくバランスが良いと思う。全員いのしし年でそれぞれの時代感覚が垣間見れたりして興味深い議論だった。

宮台さんの「リベラルは開かれに閉じられている、僕は閉じられに開かれている」という話も面白かった。宮台さんはいつも以上に饒舌で「ゲンロンカフェに閉じられて開かれる宮台さん」て感じで言動一致だった。

東さんの斎藤浩平さん評も興味深かった。たしかに最近は大きな物語が語られることが多くなったような。ていうか東さん話し方が穏やかになった気がするのだけど気のせいかわからない。意図的にそうしてたのかな。

けど一番印象的だったのは西田さんだった。