騒音トラブルが戦争だということだけど
[B! 増田] お前らは知らんかもしれんけど騒音問題の近隣トラブルは戦争なんだよ
報道から見える顛末としては近隣住民が外で遊ぶ子供の声がうるさいとして役所に苦情を入れ公園が撤去されたという話なんだけど、この手の話で一番大事な過程の話が出てこないのが気になっている。
前提として何かを不快に思ったりうるさいと感じるのは定量化できそうで簡単にできるものではなく、時と場所と関係性に依存する部分が大きい。
定量的に見れば救急車の音も暴走族の音も音量としては似たようなものだけれど、多くの人は救急車の音を許容できる一方、暴走族の音はうるさいと感じる。
電車の中で歌っている人が奇異に見える一方、みな家の中やカラオケでは普通に歌ったりする。
街中でいちゃついているカップルをうるさいと感じる一方、テレビで似たようなシーンを見てもうるさいとは感じなかったりする。
外で遊ぶ子供の声がうるさいと感じる一方、自らの子供が家の中で遊んでいてもうるさいとはあまり感じない。
そこになにがしかの背景があり、場所が持つ目的に合致し、音に意味が内在しているとこちらが認識することができれば騒音は騒音でなくなる。
もちろんこうした話は聴覚過敏を持っている人にとって見れば意味のない話である。どうしようもなくうるさいと感じる人も中にはいるので一概に言えたものではない。
しかしながら、一概には言えないものの一般的な感覚によって騒音問題を捉えることは重要であるように思われる。というのも、問題となっている騒音が聴覚過敏のような特殊事例によるものなのか、または一般的な感覚を持つ人がうるさいと感じているのかは事情としてはまったく別であるからだ。
騒音問題が報道された時に注意すべきなのは個人の身体的事情によるものか、または近隣というコミュニティーがなくなり子供の声が「ただの音」になってしまったという社会的事情によるものかであるが、それらは明確に分けて考えるべきであろう。
前者（個人的事情）であれば社会的な議論にする必要はあまりない。事情を汲んで騒がないようにしたりするのが望ましいけれど、そうでないのであれば公園を撤去するという選択もないわけではないだろう。
しかし後者（社会的事情）であれば軽々と公園を撤去すべきではない。社会的事情により子供の声がうるさいと感じているのであれば、難儀ではあるけれど、理解を得てもらうための話し合いが上策である。特殊な事情を持つ人でない限り、公園で遊ぶ子供の声は許容可能なものになりうるからだ。
今回の件がどちらの事情によるものなのかは今のところわからないのでなんとも言えないけれど、子供の声を許容しなくても良いという「特殊言説の一般化」には反対したい。特殊な事情を持つ人がうるさいと表明するのは良いし、そうすべきだけれど、その特殊な事情を利用することで私欲を表明する人が必ず出てくるからだ。ちょうど上記増田が騒音問題は戦争だと書いているが、戦争になる前には必ず前提条件の崩壊というものがある。子供の声もそうだが、お互い様のような感覚も今やあまり聞かなくなり、共同体も崩壊したと言われて久しい。そこで前提となる了解が消え、私欲が表に現れ明らかになる（表明される）ことで戦争になるのだろう。
無論、共同体の崩壊のような抽象的な事情及び聴覚障害のような特殊な事情がそこにあるかは外部からは判断がつきずらくなんとも言えないけれど、騒音問題が私欲をぶつけあう点で戦争だとするのであれば一般的には戦争になる前にやることがあるというだけの話ではある。
一般的に言って、子供の声は受けとる側の感覚によってその音量を下げたり、あるいは音楽として聴くことだってできる。戦争の前にまずその「普通の処方」を試してみても良いのではないだろうか。
子供の声は許容すべき性質の音であるし、仮に子供の声がただの騒音だと感じているのであればそこには社会的な背景があるのでその原因につっこんでいって、可能であれば理解してもらうべきなのだろう。個人の私欲をアイソレートし、それ自体が独立に存在しているという前提で騒音問題は戦争だというけれど、欲望や感覚は他者によって変質可能な部分が大きいものでもある。しかしながら個人の感覚につっこんでいって話し合うのがとても難しいのが現状でもある。その変質の不可能性や不可侵性にこそ問題の根があるように、「一般的には」そう見えてしまう。
すこし前に「他人のことは気にしない」「自分と他人を切り離す」みたいなことが世渡り術のように言われていたけれど、他人を切り離すと他人の出す音が許せなくなり、結果として騒音に感じる人が出てくるような、そんなマインドセットとも表裏一体の話題だと、すこしだけ思ってしまった。
