メロンダウト

メロンについて考えるよ

テラフォーマーズの成功はプロレタリアート文学としての成功だと思うの

週刊ヤングジャンプで連載しているテラフォーマーズ。僕は毎週読んでいるので連載当初からのファンだ。

 

映画化され最近はパチンコにもなるテラフォーマーズがなぜここまで人気が出たのかといえば設定のインパクトがでかかったのだろう。

まずゴキブリが人間大になった時に持つ容姿のインパクトが初めて見た時には衝撃的だった。生理的嫌悪感に訴えてくるのでどんなホラーよりも存在として恐ろしい。さらにいきなりゴキブリに愛する女性が殺されるというのも考えられるなかでも最悪の悲劇だ。

そんなゴキブリの脅威さが強調されていた一章が終わるとすこし様相が変わってくる。変わってくるというよりもゴキブリの脅威はそのままに文学的要素が追加されたと言ったほうがいいかもしれない。

 

 

二章に入ると個人の人生に視点をあてた描写が多々見受けられるようになる。それも主に悲劇として。いや労働者階級の困難さといえばプロレタリアート文学のそれだと勝手に思っている。

 

登場人物それぞれ見ていこう

 

運命に翻弄される班員達

・小町小吉(アネックス艦長、マーズランキング3位)

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まず艦長の小吉が幼いころに殺人をしている。幼馴染のアキちゃんに暴行を加えようとした親を空手で殴り殺してしまう。そして前科持ちのためまともに生きていくことは難しくなり成功率30%のバグズ手術をうけ火星に飛ばされる。さらに一度は救ったアキちゃんが火星でゴキブリに突然殺されてしまうというまさに悲劇を体現したような男だ。

それでも悲劇に絶対に屈しない。そして誰よりも人を思う艦長の象徴的なセリフがミッシェルやあかりのことを思いながら言った言葉で

「おまえ達は美しく生きられる」

理想の上司

 

・アドルフ・ラインハルト(ドイツオフィサー マーズランキング2位)

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個人的に好きなキャラクター1位のアドルフさん。両親が手術の失敗で死亡しアドルフは成功。以来アドルフは幼いころから人体実験を繰り返し、いつしか人間的な感情も忘れてしまうがある女性に出会ったことで自らを取り戻していく。

しかしその女性との間に生まれた息子が持っているはずのM・O(遺伝子)を持っていなかったことで妻の浮気が発覚。自分を人間にしてくれた女性の裏切りにとてつもない憤りを感じるアドルフ。

それでも火星にオフィサーとして行くことになる。しかしゴキブリの急襲に遭い班員全てを失うことになり自らも死んでしまう時になると心臓に埋め込まれた爆弾によってゴキブリを道連れに自爆。

出生、人体実験、女性とあらゆる運命に翻弄されつづける男がそれでも最後まで班員達を守ろうとする。誰よりも優しい人間

「人間はな、弱いんだよ」という言葉は諦めの言葉ではない

 

 

・鬼塚慶次(マーズランキング8位)

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元ボクシングフェザー級世界一位。しかしその戦績とは裏腹に慶次はアウトサイドのボクシングスタイルで業界で目立つ存在ではなかった。母子家庭で育った慶次は母を楽にさせるために、強くなるためにボクシングをしていたがその母が亡くなってしまう。

さらに網膜剥離によりボクサー生命が絶たれてしまう。母が亡くなり戦う理由を無くしてしまった慶次だが本土から母の眠る島を見たいと手術をうけ班員となる。

誰よりも男らしい。感情的になるよりもストイックに矜持を持ち続けるその姿は男としては理想的な人物像。

 

・ウォルフ・レッドフィールド(マーズランキング90位)

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非戦闘員の技術班員のウォルフ。プログラマーとして働いていたが過労で倒れるまで働かされていた元サラリーマン。結婚式の前日にも納期に間に合わないからと仕事をしていて結婚式では疲れで一度も笑わなかった。後に離婚。そこまでして働いた仕事も退職。残ったものは何もなかった。

最も身近に起きうる悲劇を持つウォルフには同情する人も多いのではないだろうか。その推理能力と任務遂行能力は特筆すべきものがある。ちゃんとした職場で働けていれば・・・

 

他にもミッシェルやイワンにあかりなどなどもそれぞれ悲しい過去を持っているのだが興味のある方はアニメ、漫画、映画のほうで楽しんでください。

 

 

テラフォーマーズプロレタリアート文学の類似点

それぞれのキャラクターはみなそれぞれの悲しい過去を持っていてどうしようもない理由で火星に来た人ばかり。

資本に振り回される労働者という枠で考えればプロレタリアート文学に似ている。アメリカの独立戦争なども近いかもしれない。

運命に振り回され歯車の一部として生きていくがそれでも現状を呪わずに自由を求め続ける。

 

プロレタリアート文学で代表的なもののひとつが数年前に流行った『蟹工船』だがテラフォーマーズに構成が似ている。

おい地獄さ行(え)ぐんだで!

蟹工船とは、戦前にオホーツク海カムチャツカ半島沖海域で行われた北洋漁業で使用される、漁獲物の加工設備を備えた大型船である。搭載した小型船でたらば蟹を漁獲し、ただちに母船で蟹を缶詰に加工する。その母船の一隻である「博光丸」が本作の舞台である。

蟹工船は「工船」であって「航船」ではない。だから航海法は適用されず、危険な老朽船が改造して投入された[2]。また工場でもないので、労働法規も適用されなかった [3]。 そのため蟹工船は法規の真空部分であり、海上の閉鎖空間である船内では、東北一円の貧困層から募集した出稼ぎ労働者に対する資本側の非人道的酷使がまかり通っていた。また北洋漁業振興の国策から、政府も資本側と結託して事態を黙認する姿勢であった。

情け知らずの監督である浅川は労働者たちを人間扱いせず、彼らは劣悪で過酷な労働環境の中、暴力・虐待・過労や病気で次々と倒れてゆく。転覆した蟹工船をロシア人が救出したことがきっかけで異国の人も同じ人間と感じ、中国人の通訳も通じ、「プロレタリアートこそ最も尊い存在」と知らされるが、船長がそれを「赤化」とみなす。学生の一人は現場の環境に比べれば、ドストエフスキーの「死の家の記録」の流刑場はましなほうという。当初は無自覚だった労働者たちはやがて権利意識に覚醒し、指導者のもとストライキ闘争に踏み切る。会社側は海軍に無線で鎮圧を要請し、接舷してきた駆逐艦から乗り込んできた水兵にスト指導者たちは逮捕され、最初のストライキは失敗に終わった。労働者たちは作戦を練り直し、再度のストライキに踏み切る。

蟹工船 - Wikipedia

 

船ということがそもそも似ているし労働者のどうしようもない悲哀という側面も似ている。話の内容自体は任務を遂行しようと勤めるテラフォーマーズストライキで対抗しようとする蟹工船は違う。しかしそのなんとか現状を打破して自由な生活を獲得しようとするベクトルは同じでそれはアメリカの独立戦争だったりいろんな物語で主題となって現れてくる。

だからテラフォーマーズを読んでいると漫画というよりも文学を読んでいるような気になってくるのだ。一時の享楽を得るエンターテインメントというよりも社会的な側面が強いし現実に立ち向かう姿勢のようなものを学ぶことができる。友情・努力・勝利というお題目ではなくもっと具体的な感情の響きに近い。

 

だからテラフォーマーズは面白い。それはプロレタリアート文学としての面白さだと思うの。