年末にも書いた宮台真司さんの言っていることだけれどすこし違和感を持つようになってきた。年末のゲンロンカフェ特番を見てから宮台さんの動画や書籍などを見ていた1月だったのだけれど、彼の言っていることはおよそ次のようなことである。
現代はコミュニケーションが崩壊した社会であり、自家中毒の人間が増えている。個人主義が蔓延し共同体が崩壊している。個人がバラバラになったことで言葉を機械的に喋るようになる人が増えた。その結果、言葉の外あるいは法外で繋がるような強固な人間関係を築くことが難しくなっている。
現象としてはその通りだと僕なんかも思っていておおむね同意している。たしかに事務的なコミュニケーションをする人が増えた。過剰なポジティブさが暗黙のルールとして働いていて人間がそのまま人間同士で繋がるような関係を築くことは難しくなっているのかもしれない。友人関係も定型化していて趣味で繋がっていたりと関係の前に目的がくるようになっている。ネット上でも繋がりたい人同士が繋がるだけで目的の外に関係を見つけることが難しくなっていて、人間関係がクラスタごとに分かれている。関係することそのものが目的の友人関係はつくりにくくなっている。
それが宮台さんの言う法の外でシンクロする人が少なくなっているということなのだろう。言い換えれば目的の外で繋がる関係が少なくなっているとも言える。
しかしそうやって目的の外で繋がる関係はどうしたって強制という側面を含む。目的外の関係、法外の関係で言えば地縁や血縁などが筆頭にあがるだろうけれどそうした関係が至上の関係だと言ってしまうことへの弊害もかなりある。強固に築き上げた人間関係において自分と他人が溶け合っていくことの享楽は僕なんかにもよくわかるけれどそれは逆説的に自分と他人が切り離せない状態だとも言える。そういう関係はとても望ましいものだけれど同時にとても危険なものでもある。大人同士で見初めあい結婚したパートナーとならともかくそういう関係を他人と築くことはどうしたって注意深くなる必要がありそのためには時間と環境が必要である。だからそういう目的外、法外の関係は学生時代の友人だったり困難な仕事を一緒に乗り越えた同僚などに限られてくる。
素の状態で社会人がそういう法外の関係を築くことは条件的にとても難しい。仕事も今は残業禁止でハラスメントを注意しなければならず過度なコミュニケーションをほとんど禁止されている企業がほとんどで、そうでなくても事務的にやりとりをするだけの関係にとどまることのほうが多い。
そういう環境の中で法外とか目的外とかそういう人間関係が至上と言われても「それはわかるんだけれど」としか言いようがない。
もちろんコミュニケーション技術が高く居酒屋やサークルなどでそういう関係を築ける人もいるだろうけれど、そうではない人のほうが圧倒的多数を占める。
これまでは自分が自分一人では生きていけなかったので条件的に地縁や血縁などから法外の関係を築くことが生存戦略として必須だった。しかし今はそうではない。そうではないからそういう関係を築かなくなった。
けどそれって本当にそこまで悲観するような事態なのだろうか。法外の関係が共同体を維持していたことは間違いないけれどそれによって苦しめられていた人もたくさんいたはずである。ならばそれは単に適応の話でしかないのではないだろうか。
今は目的的に関係を築くことが適応であり、以前は法外の関係のように強固な人間関係を築くことが適応だっただけだとも言える。
そうやって強固に人間関係を築いたゆえの歪みみたいなものが前時代の文学をはじめとした作品から見ることができる。そういう強固な人間関係から漏れる「孤独」こそを文学は拾っていた。つまり地縁や血縁などの法外の関係から漏れた人間でもそれでも人間だと書いていた。共同体と同時に孤独も掬っていたからこそ全体が総じて社会として成立していたのではないだろうか。つまり法外の関係によって繋がり共同体をつくり仲間と生きていくなんて美談だけで成立するようにできてはいなかったのだと思う。そんなに楽な時代ではなかったはずだよ、昭和も。
なればこそ今この時代においても言葉を自動機械のように喋るような人間でもそれでも人間だと言うようなコードやエクスキューズや物語を認めることこそが必要なのではないだろうか。おそらく言葉の自動機械やクズと言ってそういう目を背けたくなるような孤独な人達を別な存在として見ることは間違っている。そういう人間でもそれでも人間だと、そういうエクスキューズが必要とされているような、そんな気がする。
進撃の巨人31話よりアニ
あんたは正しい人だと思う
正しいことを言うから
私はそういう人がいることを知ってる
大きな流れに逆らうって…とても勇気がいることだから
尊敬するよ
ただ単にバカなだけかもしれないけど…
まぁ…明らかなのはそういう人は珍しいってことだよ
(マルロ)
…
(アニ)
つまり一般的とは言わない
普通とも言わない
あんたのような人は特殊な人と呼ばれる
それに対して私達は何と呼ばれるべきかな
他人より自分の利益を優先させ
周りがズルをすれば一緒に流される
こんな人達をあんたは
クズ…とか悪と呼んだ
私の見てきた限りでは訓練兵っでは憲兵団を目指すクズと悪人が大半を占めていた
(マルロ)
回りくどいなぁ…
つまり自分達はそんなに悪くないって言いたいんだろ?
(アニ)
いいや…
実際クズだと思うし悪いヤツに違いないよ
到底正しい人間とは言えないだろうけど…それも
普通の人間なんじゃないの?
あんたの言うように本来人間が皆 良い人であればこの組織はこんなに腐ってないでしょ?
この組織の仕組みが人間の本質がよく表れるような構造になってるだけで
だから…私は…ただ
そうやって流されるような弱いヤツでも
人間だと思われたいだけ…
それだけ